トップページ今月おすすめの1冊>第17回 父の詫び状

第17回 父の詫び状

◆向田邦子という存在


向田邦子さんといえば、数多くの名作ドラマを世に出したシナリオライターであり、直木賞作家。と同時に、好奇心旺盛で食いしん坊で、おしゃれで骨董好きで、旅上手...そんなライフスタイルがつねに女性たちの(とくにキャリア層の)注目を集めていたように思います。 最初の上司だった女性編集長も、いつもボブカットに粋なスーツ姿でさっそうと街なかを歩いていました。編集長も向田邦子さんの熱烈なファンだったのでしょう、きっと。


かくいう私は、若い頃は何とはなしに、向田作品を敬遠していました。いつでも読める身近な存在でありながら、「まだ早い」という感覚があったのです。 そして40代になった今、初めて向田作品を手にとりたくなりました。行間にさりげなく隠された優しさや粋...つまり、人としての「味」みたいなものが、ようやく分かってくる年齢になったからかもしれません。


◆『父の詫び状』について


父の詫び状


私が最初に手にとった向田作品。それは、1978年に単行本化されたエッセイ『父の詫び状』です。向田さんの代表作ともいわれ、NHKドラマにもなりました。


短気な父からの無愛想な詫び状、母が自分に対してお辞儀をした瞬間、初めて作った喪服に早く袖を通したいという葛藤...など、思い出話や日常の出来事がつづられています。向田さんは直接的に哀しい、とか、切ない、とかは言いません。ただ、その情景を描きながら、一言では表せない心の動きというものを行間ににじませている。だから、ふんわりなじんでくるような、軽やかな読後感があるのです。


単純明快に生きてきた私は、向田さんのように、言わずに語ることができる大人の女性になれるのかな、と、ふっとため息。

向田さんはわずか51歳で急逝。しかも、航空機の墜落事故で。老いの一歩手前でなくなった彼女は、永遠に、手が届きそうで届かない存在になってしまった。今年は向田邦子没後30年の節目です。


「父の詫び状」新装版 2006年、文藝春秋刊

(写真は新装版の文春文庫。富士館には全集があります)


◆向田ワールドに触れましょう


book.jpg

富士館には近日、「名作の親しむ 向田邦子」ミニコーナーが登場する予定です。向田邦子さんの全集や、その人となりを紹介する特集ムックもあります。ぜひご覧ください。



 (文・富士館司書 廣重 裕子) 

お問い合わせは

ふじねっと
〒840-0543 佐賀市富士町大字古場1485-1
Tel 0952-51-7100、Fax 0952-51-7101
Eメール:info@fuji-net.jp